顧客中心主義と、その重要性について
顧客中心プロセスの実践によって得られるメリットの最たるものは、顧客離れの防止です。新規顧客の獲得よりも既存顧客を維持するほうが容易かつ費用対効果も高いというのは、以前から言われてきたことでした。2014年のHarvard Business Reviewによる調査では、新規顧客の獲得は既存顧客の維持よりも5倍から25倍の費用がかかるという事実が強調されています。このような考えは新しいものではないものの、実際に新規の顧客よりも既存の顧客を優先している企業はあまり増えていません。それはなぜでしょうか?
顧客中心主義に向けて克服すべき3つの課題
顧客中心主義の課題1:企業内で一丸となって文化を築く
顧客中心の組織に共通していることとしてまず挙げられるのが、顧客第一という価値観をコアに置いていることです。また、すべての従業員がこの認識でビジネス上の意思決定を行うことで、顧客中心主義の企業となり得ます。例えばインフォマティカでは「We DATA」という価値観を掲げており、その中の一つに「Think Customer First(お客様を一番に考える)」があります。弊社では全社会議のたびにこれを再確認し、この価値観を体現した従業員を表彰するなど、年次の業績評価に織り込んでもいます。従業員ひとりひとりが適切に考えて働くことができるようにすることで、顧客第一の環境が作られます。
顧客中心主義の課題2:製品中心から顧客中心のビジネスへ移行する
こういった非効率性や質の低いカスタマーエクスペリエンスは、販売する製品を中心に据えるという従来の組織構造が招いたものです。これまで多くの企業が、できるだけ多くの人や組織にできるだけ多くの製品を売ることを第一に掲げたビジネスを展開してきました。こういった戦略は、製品に100%重きを置いており、顧客の好みに全く配慮していないのです。このように、当たるなら誰にでもいいとやみくもに製品を売ろうとする状態を、マーケティングでは“spray and pray(運任せ)”戦略と呼んでいます。
顧客中心主義の課題3:データとテクノロジーを使いこなす
顧客中心主義の前に立ちはだかる壁を壊す方法
・顧客第一の文化を構築すること:CEOから現場のスタッフまで、すべての従業員が熱心に顧客理解に努め、それをビジネス上の使命、価値観、ビジョンに組み込む必要があります。
・データを改善すること:データの品質、一貫性、可用性を向上させることで、ビジネスにおけるあらゆる段階において、すべての従業員が顧客を識別し、理解できるようになります。大半の企業では、品質低下や使いにくさなどが原因でデータを十分に活用できていません。これに対しては、AI技術を用いた自動接続を活用することで、個人の識別やそれぞれの顧客に対するオファーの改善につなげることができます。
・顧客のフィードバックを集めること:顧客が何を望み、何を必要としているかを実際に聞くことで、顧客をよりよく理解することができます。得られたフィードバックに共通している事柄はないか調べてみましょう。すべての顧客が常に正しいとは限りませんが、同じようなフィードバックが複数の顧客から得られた場合は耳を傾けることが大切です。
・従業員に報酬を与えること:従業員に対する補償、表彰、報酬などを、顧客のニーズを満たすことと直接的に結び付けます。従業員から企業に対する信頼を得ることで、顧客第一の考えも各自のなかでより根付くようになります。
・長期的な目線で考えること:一度限りの取引で終わる顧客よりも、リピーターの顧客の方が企業にとってより価値のある存在と言えます。快適なエクスペリエンスを提供することで、顧客は企業に対して親近感を抱き、自分をきちんと認識してくれていると感じるようになります。長期的な関係を築くことは顧客の企業に対する信頼を高め、結果として収益増をもたらします。これはまさに、カスタマーエクスペリエンスが企業に与える影響を実感できるプラクティスです。
クライアント・エンジニアリング事業紹介セミナーレポート
IBMが変化したところと変化していないところ
テクノロジーで社会を支え続けるために
根本: 今日はしゃちほこばったプレゼンテーションではなく、会話形式でCEのこと、そしてCEのリーダーである村澤さんについてお伺いさせていただきます。よろしくお願いします。
村澤: 根本さん、今日はどうぞよろしくお願いします。まず変わっていないところですが、IBMは毎年、R&Dに巨額を投じ続けています。それは「今」に対応するためだけではなく、「未来」のための研究開発に力を入れ続けているからです。
根本: なるほど。それでは「変化が常態」というそんなIBMで、今何が起きているのでしょうか? また、社会や未来をどのように捉えているのでしょうか?
村澤: これまで社会を支えてきた構造に大きな変化が起きようとしている、その「大変革前夜」が今だという認識です。「サステナビリティー」や「メタバース」という言葉は、その一端を示しているキーワードではないでしょうか。
デジタル技術で「タガ」を外すには
テクノロジー事業本部とCEの役割
根本: 村澤さんがリードしているのはCEという新しい事業であり、その所属はテクノロジー事業本部となっています。今の話において、それぞれどのような位置付けとなるのでしょうか。
村澤: テクノロジー事業本部の最大のミッションは、ITそしてデジタル技術を活かし、社会基盤と事業基盤の刷新を進めることにあります。
根本: いよいよCEの出番でしょうか?
村澤: その通りです。先程申し上げたように、社会の枠組みをアップデートしていくことは、IBM一社でできることではありません。
根本: 具体的にイメージしやすい例などありますか?
村澤: そうですね、これまでは直接的な共創を行うことの少なかった複数企業がパートナーとなり、再生プラスチック材を中核とする循環経済基盤の整備を通じ、資源循環社会の実現をスピードアップしようという取り組みなどは分かりやすいのではないでしょうか。
- 参考: プラスチック資源循環への参画で競争優位性を
- 参考: 資源循環社会の実現に向け、企業と消費者が活用可能なデジタルプラットフォームを構築
無償でここまで取り組んでくれるのか!
社会の枠組みを変え前進させていくために
根本: CEについてもう少し詳しくそして深く聞かせてください。まずはこのちょっと分かりづらい名前について。
村澤: そう、なかなかニュアンスが伝わりづらいですよね。「エンジニアリング」という言葉に重工業や機械をイメージされる方も多いかもしれませんが、我われは「クライアントと共に付加価値の共創を続けていくチーム」という意味でこの名称を用いています。
根本: なるほど。CEがスタートしたのは2021年からということですが、これまでの経緯や手応えについて聞かせてください。
村澤: 「無償でここまで取り組んでくれるのか!」と、以前からIBMとお付き合いいただいていたお客さまからは驚きの声をいただいており、好評です。
「思考の粘り強さ」と「試行の粘り強さ」
唯一無二の絶対解がない時代に
根本: 今年は新卒の募集を開始しました。その理由は?
村澤: 今、我われCEでは、多種多様なプロフェッショナルたちに、自由闊達に互いの意見を交わしながらスキルを発揮していただいています。その結果、認知多様性 – すなわち脳や神経における個性や知覚処理方法の違い – という、これからの組織プラットフォームに欠かせない大変重要な要素を拡充することができました。
根本: なるほど、そういうお考えからなんですね。それでは、村澤さん自身がチームに求めている人物像があれば教えてください。
村澤: 分かりました。まず、今のこの社会には「唯一無二の絶対解」がありません。あらゆることを試し、その中から可能性のありそうなものを磨き上げながら「正解らしきもの」へと近づかせる、あるいは近づいていくという行動が欠かせません。「100試しても1つも形にならない」なんて厳しい結果も、まったく珍しくもないのが今という時代です。
根本: よく分かりました。それでは村澤さん、最後にIBM、そしてCEへの応募を検討されている方がたにメッセージをお願いします。
村澤: 「このタイミングで社会に羽ばたけるなんて、本当に幸せな世代で羨ましいな。」というのが私の皆さんへの正直な気持ちです。
哺乳類最長の心臓再生可能期間を持つオポッサム
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター心臓再生研究チームの西山千尋テクニカルスタッフ、木村航チームリーダー、熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)の有馬勇一郎特任准教授らの共同研究グループは、有袋類 [1] であるハイイロジネズミオポッサム( Monodelphis domestica 、以下オポッサム)の新生仔は、出生後2週間以上にわたって心臓を再生させる能力を持つことを発見しました。
本研究は、科学雑誌『 Circulation 』オンライン版(5月26日付:日本時間5月26日)に掲載されました。
哺乳類の種間比較による心筋再生の分子機構の同定
心疾患はヒトの死因の第一位を占めており、現代において最も重大な疾患の一つです 注1) 。その主な原因の一つとして、成体の哺乳類には心筋梗塞などで失われた心筋細胞を再生させる能力がないため、障害を受けた心臓の治療法に限界があることが挙げられます。一方、胎仔期および出生直後の新生仔期の哺乳類には、多くの心筋細胞に細胞分裂能があり、心筋梗塞などの障害を受けると心筋細胞の細胞分裂が活性化され、失われた心筋組織を再生することができます。
有袋類の一種ハイイロジネズミオポッサム( Monodelphis domestica 、以下オポッサム)は、体長が約15cmであり、マウスやラットに似た飼育形態での繁殖、系統維持が可能であることから、有袋類では数少ない確立されたモデル動物の一つです。オポッサムは他の有袋類同様、短い妊娠期間(14日間)を経て未熟な新生仔を産みますが、カンガルーのような育児嚢(袋)を持たないため、仔は母親の乳房にしがみついて離乳期まで過ごします。
本研究では、理研生命機能科学研究センター生体モデル開発チームで飼育・維持されているオポッサム テクニカル指標の重要性を理解する 注2) を用いて、新生仔の心筋細胞が細胞分裂を継続するか、またそれと同調して心筋再生能を維持しているかを調べました。
- 注1) 2019年の全世界死因1位はIschaemic heart disease(虚血性心疾患)で、約890万人が亡くなっている。
WHO「The top 10 causes of death(9 December 2020)」 - 注1) 2021年7月22日プレスリリース「有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功」
研究手法と成果
図1 マウス・オポッサム新生仔の心筋細胞の細胞分裂
- (上図)出生後1日および7日のオポッサム心筋組織の免疫染色像。各色はそれぞれ、白色:細胞膜(WGA、小麦胚芽凝集素)、赤色:心筋(cTNT、心筋トロポニンT)、緑色:分裂細胞(pH3、リン酸化ヒストンH3)、青色:細胞核(DAPI)に対する染色を示す。矢印は細胞分裂している心筋細胞を指し、その断面像を上および右に並べた。スケールバーは5マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)。
- (下図)マウスおよびオポッサム新生仔について、出生後の日齢と心筋細胞の細胞分裂の頻度を比較したグラフ。四角や丸は、それぞれ観察した個体を示す。統計的有意性の指標であるP値は、一元配置分散分析後の多重比較(テューキー法)による算出。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図2 オポッサム新生仔の心筋再生能力
図3 心筋特異的AMPKノックアウトマウス新生仔の心筋細胞の細胞分裂
- (左) 出生後7日のノックアウトマウス心筋組織の免疫染色像。細胞分裂している心筋細胞を矢印で示す。スケールバーは5μm。
- (右) 出生後7日での対照(コントロール)群とノックアウト群でのマウス心筋細胞の細胞分裂の頻度の比較。P値はt検定による算出。**P<0.01
今後の期待
- 1.有袋類、真獣類
現生哺乳類の分類群。有袋類は発達した胎盤を持たず、未熟な状態で生まれた新生仔は、体外で母乳を飲んで成熟する。一方、多くの哺乳類が含まれる真獣類(有胎盤類)は、胎盤を介して母体から胚に栄養分を供給する。 - 2.心筋梗塞
心臓に酸素を供給する動脈が閉塞し、酸素不足となった心筋が壊死する心臓病。 - 3.AMPKシグナル
細胞内シグナル伝達系の一つで、細胞内のエネルギー源の枯渇に応答して活性化され、ミトコンドリア代謝の上昇などによりエネルギー産生量を増やすなどの働きを持つ。AMPKは5'-adenosine monophosphate-activated protein kinaseの略。 - 4.テクニカル指標の重要性を理解する 心尖部切除
心臓の損傷に対する応答について調べるために行われる、心室の先端部(心房から最も遠い箇所)を部分的に切除する実験手法。 - 5.トランスクリプトーム解析
細胞や組織の遺伝子発現(mRNA)の状態を網羅的に解析する手法。 - 6.コンディショナルノックアウトマウス
特定の遺伝子の機能を、特定の時期かつ・または特定の細胞種でのみ喪失させた遺伝子改変マウス。
共同研究グループ
理化学研究所 生命機能科学研究センター
心臓再生研究チーム
テクニカルスタッフ 西山 千尋(ニシヤマ・チヒロ)
基礎科学特別研究員 齋藤 祐一(サイトウ・ユウイチ)
研究員 坂口 あかね(サカグチ・アカネ)
チームリーダー 木村 航(キムラ・ワタル)
生体モデル開発チーム
テクニカルスタッフ 金子 麻里(カネコ・マリ)
チームリーダー 清成 寛(キヨナリ・ヒロシ)
自治医科大学 分子病態治療研究センター 再生医学研究部
准教授 魚崎 英毅(ウオサキ・ヒデキ)
熊本大学 国際先端医学研究機構(IRCMS)
特任准教授 有馬 勇一郎(アリマ・ユウイチロウ)
原論文情報
- Chihiro Nishiyama, Yuichi Saito, Akane Sakaguchi, Mari Kaneko, Hiroshi Kiyonari, Yuqing Xu, Yuichiro Arima, Hideki Uosaki, and Wataru Kimura, "Prolonged Myocardial Regenerative Capacity in Neonatal Opossum", Circulation , 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.055269
理化学研究所
生命機能科学研究センター 心臓再生研究チーム
チームリーダー 木村 航(キムラ・ワタル)
テクニカルスタッフ 西山 千尋(ニシヤマ・チヒロ)
熊本大学 国際先端医学研究機構(IRCMS)
特任准教授 有馬 勇一郎(アリマ・ユウイチロウ)
西山 千尋
木村 航
熊本大学 総務部総務課 広報戦略室
Tel: 096-342-3269 / Fax: 096-342-3110
Email: sos-koho テクニカル指標の重要性を理解する [at] jimu.kumamoto-u.ac.jp
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